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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10624号 判決

原告 中村一勇

右訴訟代理人弁護士 上山義昭

同 伊東七五三八

同 森岡幹雄

同 那須忠行

被告 株式会社福入商社

右代表者代表取締役 東日出光

被告 株式会社福入

右代表者代表取締役 東日出光

被告 福入商事株式会社

右代表者代表取締役 東日出光

被告 東日出光

主文

一  被告株式会社福入商社、被告福入商事株式会社、被告東日出光は各自原告に対し金一七〇万円及びこれに対する昭和四一年七月一二日以降昭和四二年三月二四日まで日歩金二銭五厘、翌二五日以降完済に至るまで年一割八分の各割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社福入に対する請求及び被告株式会社福入商社、被告福入商事株式会社、被告東日出光に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告株式会社福入との間に生じた分は原告の負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じた分は同被告らの連帯負担とする。

四  この判決の第一項は仮りに執行することができる。

事実

原告は、「被告らは各自原告に対し金一七〇万円及びこれに対する昭和四一年七月一二日以降昭和四二年三月二四日まで日歩金二銭五厘、翌二五日以降完済に至るまで日歩金五銭の各割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告は、その請求の原因として、

「一 原告は昭和三九年八月二九日被告福入商社に対し金二〇〇万円を貸与した。

二 同被告は昭和四一年七月一一日その内金三〇万円を弁済したものの、残金一七〇万円の弁済をしなかったが、同日原告との間に、これを目的とする準消費貸借契約を結び、同被告は利息日歩金二銭五厘、毎月末日限り元本の内金三〇万円宛と利息とを支払う旨約した。

三 同被告は右支払を全然しなかったので、昭和四二年三月二四日被告福入商事が重畳的に右債務を引受けたうえ、原告と被告福入商社、被告福入商事との間に次のような準消費貸借契約が結ばれた。

1  被告福入商社は内金六〇万円につき、弁済期を翌四三年六月末日とし、利息日歩金五銭、毎月末日限り支払う。

2  被告福入商事は内金一一〇万円につき、これを金五五万円宛二口に分って、それぞれ弁済期昭和四三年六月三〇日、利息日歩金五銭、毎月二二日限り支払う。

3  担保として、同被告ら所有の建物に抵当権を設定する。

四 ところが、被告東は右建物につき抵当権設定登記をせずに、所有権移転請求権保全の仮登記をしたのであるが、右物件にはいずれも先順位の仮登記、国税庁の差押登記があって、担保価値のないものであった。しかも、同被告は被告福入商社、被告福入商事の代表取締役であって、右両被告会社とも形式的には妻東喜久子、長男東祥弘が取締役、次男東次郎が監査役となっているが、いずれも会社の実体はない。のみならず、被告東は昭和四二年一月二〇日新たに被告福入を設立した(役員は前記両被告会社と同じ)。被告東はこれら三被告会社を使い分けて、他人をしてその同一性を誤信させ、債権者の追及を免れている。被告会社三社は、法人格否認の法理により、実質上被告東と同一性あるものである。

五 よって、原告は被告ら各自に対し右貸金残金一七〇万円とこれに対する昭和四一年七月一二日以降昭和四二年三月二四日まで約定利率日歩金二銭五厘、翌二五日以降完済に至るまで約定利率日歩金五銭の各割合による利息、遅延損害金の支払を求める。」

と述べた。

被告らは、答弁として、

「請求原因事実はすべて争う。被告福入商社は原告と競売物件の競落、転売を目的として共同事業を行い、原告はこれに出資したのである。原告主張の抵当権は後日売買予約による仮登記をするように変更された。」

と述べた。

≪証拠関係省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告福入商社は裁判所の競売不動産を競落して、これを他に転売することを主たる業としていた。

2  原告は昭和三九年五、六月頃被告東と知合い、同被告からその主宰する被告福入商社の右事業内容やそのための資金を求めている実情を説明された後、同年七月末か八月始め頃適当な物件があるとして資金援助を求められたので、これに応じて金二〇〇万円を被告東に交付して、これを被告福入商社に貸与した。

3  被告東は、原告に話した右物件を競落し、更にこれを転売したにも拘らず、その後右借用金を原告に返還しないので、原告は同被告に何度も督促した結果、漸く昭和四一年七月一一日に至って、その内金三〇万円だけ返還を受け、残金一七〇万円についてはあらためて被告東から被告福入商社が毎月金三〇万円以上宛に利息日歩金二銭五厘を付してできる限り支払う旨の約束を取付け、その趣旨の誓約書を貰った。

4  ところが、同被告は右誓約にも拘らず、全然その支払をしなかった。原告は右残元本の返還を求めるとともに、担保の提供をも強く求めた結果、被告東は昭和四二年三月二四日被告福入商社の外にやはり被告東が代表取締役をしている被告福入商事を加えて、右被告両会社がともに右金一七〇万円につき利息日歩金五銭、利息支払期毎月二二日、元本弁済期昭和四三年六月三〇日と約したうえ、以上が右被告両会社の原告に対する一切の債務であることを確認し、この元本を金六〇万円と金五五万円二口に分ち、金六〇万円については被告福入商社所有の建物(東京都豊島区長崎三丁目二二番地所在)、各金五五万円については被告福入商事所有の建物(東京都江東区北砂町一〇丁目二番地及び品川区西大崎一丁目三八八番所在)に抵当権を設定する旨約した。

5  しかるに、右被告らは全然支払をなさないばかりか、右担保物件についても抵当権設定登記をせず、その代り所有権移転請求権保全の仮登記をしたが、いずれも先順位の同仮登記や差押登記があって、担保価値の少いものであった。

以上のとおり認めることができる。もっとも、被告らは原告が被告福入商社へ金二〇〇万円を交付したのは貸与ではなくて、同被告会社への出資であると争うけれども、前記認定を覆えすに足る証拠はない。

右事実によれば、被告福入商社は貸金残金一七〇万円について昭和四一年七月一一日と翌四二年三月二四日の二度に亘る準消費貸借に改めた債務を負担し、被告福入商事は二度目の準消費貸借に改める際、右債務を重畳的に引受けたものというべきである。

二  次に、≪証拠省略≫を綜合すると、次の事実が認められる。

1  被告福入商事は登記簿上昭和三五年三月三日設立され、肩書地を所在地とし、授権資本一株五〇〇円を四〇〇〇株発行済株式数一〇〇〇株、営業目的は不動産の売買と斡旋及びこれに附帯する業務、代表取締役に被告東日出光、取締役に同被告の妻東喜久子、長男東祥弘、監査役に次男東次郎が就任している旨記載されている。

2  被告福入商社は登記簿上昭和三八年九月一六日設立され肩書地を所在地とし、授権資本一株五〇〇円を八万株、発行済株式数二万株、営業目的は、(一)不動産の売買及び仲介、(二)不動産の建売、分譲、賃貸、(三)不動産の評価及び鑑定、(四)貸金業、(五)海外渡航の斡旋業、(六)プラント輸出業、(七)食糧品、日用雑貨の貿易業、(八)これらに附帯する業務となっており、役員は被告福入商事と全く同じである旨記載されている。

3  被告福入は登記簿上昭和四二年一月二〇日設立され、肩書地を所在地とし、授権資本一株五〇〇円を八〇〇〇株、発行済株式数二〇〇〇株、営業目的は、(一)不動産の売買及び仲介、(二)不動産の分譲、(三)土木、建築の設計施行、(四)不動産の評価、鑑定、測量、(五)建造物の取毀等、(六)不動産、有価証券の担保金融、商業手形の割引、(七)タイプ印書、複写印刷、クリーニング、(八)これらに附帯する業務となっており、役員は前二社の被告会社らと同じであるが、長男祥弘も代表取締役となっている旨記載されている。

4  しかし、登記簿上の右記載にも拘らず、右被告福入商社、被告福入商事はともに不動産の売買(それもその殆どが、競売物件の競落転売)とそれに関連する賃貸借、金融を行うに止まり、その他の営業目的を実施した形跡はない。僅かに、被告福入だけが代表取締役たる長男祥弘によって一時建売住宅の分譲を若干行ったことがある程度に過ぎない。そして、被告各会社、中でも被告福入商社及び被告福入商事は、被告東が事実上ひとりですべてを取仕切り、他の役員たる家族は形式的に名を並べているだけである。

5  従って、原告が前記のように被告福入商社及び被告福入商事と交渉したといっても、実際は同被告会社らの代表者たる被告東とであって、もとの被告福入商社の事務所においてだけであった。被告東は右各被告会社を区別することなく、混然とした取扱をしていたため、原告自身このように被告各会社があることさえ知らず、漸くこれを知ったときでも、本件をめぐる数々の折衝において、相手方が果して被告福入商社なのか、被告福入商事なのか、あるいは個人たる被告東なのか、判然しないことすら多かった。

6  被告福入商事は被告東の肩書住所の土地建物を所有しているが、これは被告東の個人的使用に供されたままであり、また肩書送達場所に所有する建物も実際は次男次郎の住居に供されている。そして、被告各会社は今やすべて登記簿上の所在地に存在せず、いずれも肩書送達場所に移転したかの如くであるが、それも格別事務所らしきものすらなく現在においては、営業活動をしているのかどうかも明らかでない。

以上のとおり認めることができ、これに反する証拠はない。

右認定の如く被告福入商社、被告福入商事は区別するのに紛らわしい類似の商号をもち、同一営業目的で実際にも同一営業を行い、家族だけの役員といいながらも、それは形式を整えたに過ぎず、実質は被告東ひとりが支配している個人営業であって、会社とは全く名のみであり、同被告個人と右各被告会社間及びその相互の間においても所有不動産の交錯した利用関係に見られる財産関係の混同、右各被告会社間の混然と運営等右諸事実を総合するとき、原告の本件貸金につき、かかる事実関係のもとにおいては、被告福入商社及び被告福入商事は、法人の形態をとるとはいえ、その実体は何もなく形骸と化し、被告東において法人制度を濫用しているものというべきである。従って、右被告二会社の行為は実質的には被告東のそれと同視すべきであるといわなければならない。

しかし、他方被告福入については、本件においてその詳細な内容は必ずしも明瞭ではないが、右と同様のことが認められる部分があるものの、単に長男祥弘をも代表取締役に加えたというだけでなく、主として同人が僅かながらも分譲を行ったりしており、設立についても取引上の債務を回避するとか、あるいは財産の隠匿、出資等債権者を詐害するとかの点を窺うことはできないので、右認定の事実だけをもって、その実質が被告東ひとりに帰せられるべきものと断定するのは、いささか困難である。

三  してみれば、被告福入商社、被告福入商事及び被告東は各自原告に対し前記金一七〇万円とこれに対する昭和四一年七月一二日以降翌四三年三月二四日まで約定利率による日歩金二銭五厘の割合による利息、遅延損害金、翌二五日以降完済に至るまで約定利率を利息制限法の制限利率に引直した年一割八分(三口に分割していずれも金一〇〇万円未満となる)の割合による利息、遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、右被告らに対するその余の請求及び被告福入に対する請求は理由がないので、棄却を免れない。よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項但書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富田郁郎)

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